政府は国と地方の財政赤字の解消に向けた試算を公表しましたね。何がポイントなんでしょう。
※2022年1月15日付社説「財政の悪化を直視し抜本改革に備えよ」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220116&ng=DGKKZO79263530W2A110C2EA1000
要は日本が長年続ける財政赤字をいつ終わらせることができるか、ということね。ここの財政赤字というのは、国と地方を合わせた財政収支の中でも、借金の返済を除いた基礎的財政収支(プライマリーバランス)という、借金の影響を除いた実力ベースでの数値よ。
メインのシナリオで、2021~2026年の経済成長率を実質2.4%、名目3.1%とという前提で、2025年に財政黒字を達成するとしているわ。
ただ、過去の経済成長率の推移(コロナ前の2015~2019年で実質で0.91%)を見ると、達成はなかなか難しいように思いますが、、、
なぜ政府は達成できそうな目標を掲げるでしょうか。今日も詳しく教えてください。
もちろんよ。しっかりついてきてね。
そもそも、日本の財政は、現状どのような状態なんでしょう。
2021年予算の国の一般会計では、借金の返済・新たな借入を除いた本来の収支でみると、支払83兆円、収入63兆円、と大幅に支払超(20兆円)となっているわ。
これに、借金の返済分である23兆円が加わると、さらに支払超幅は拡大するわね(43兆円)。この足りない分を、更に借金で賄っている形よ。
全然収入が足りてないですね、、、なんでこんなことに。
当たり前だけど、お金の入りに対してお金の出が多すぎるのよ。
何にお金を使っているかというと、先ほど見た通り過去の借金の返済(23兆円)、社会保障費(35兆円)に使っているわ。
借金の返済負担がそんなに重いんですね、、、相当の借金がないとそんなに返済負担は重くならないですよね。
借金の返済は、既に1,200兆円も借金が積み上がっているわ。
途方もない金額、、、
そして今後も継続的に支払いはつづくわ。仮に借金の返済の支払いを止めてしまうと、企業と同じく倒産とみなされてしまい、国としての信用力もガタ落ちしてしまい、通貨である円の下落など様々な問題につながるから、借金の返済は続けざるを得ないわ。
一方で、返済のために借金が増えれば、返済額もまた増えるわけだし、まさに負の連鎖におちてしまっているわね。
社会保障費も大きいですね。なんでこんな金額なんでしょう。
社会保障費とは、年金・医療・介護費用ね。要するに高齢者が増加するほど増えるわけだけど、日本では高齢者が増える中で、平均寿命の増加で加齢に伴い病気にかかるリスクも増加し、結果として社会保障費の支払いも増えているわ。
今後も人口の高齢化が続くことが見込まれるし、一層、社会保障費は増加せざるを得ないわね。
かといって、人の命や健康に関わるものですし、簡単に削ることもできないですね、、、
実際、社会保障費の増加が大きな要因となり、借金の返済を除いた支出と収入ベース(PB、プライマリーバランス)でも20兆円の赤字となっているわ。
ひええ、全然足りない、、、どうなっちゃうんですか。
つまり、支出については、肝心の金額の大きい項目(社会保障費・借金の返済)が今後トレンドとして増加するから、かなり思い切った荒療治をしなければ、歳出を抑制できない状況よ。
こうした事情の中で、身の丈に合わない支出を借金してまで続けているわけね。
支出が難しければ、収入はどうですか。
そうね。収入サイド、つまり税収については、①日本という国の経済活動の大きさ、②その経済活動に対して課す税率(消費税なら10%)、と連動しているわ。
それぞれ、どんな方向性が考えられるんでしょう。
経済活動については、肝心の活動の担い手である人口が減少することが見込まれるから、増加する絵姿はなかなか描きづらいわね。
かといって、経済活動に対して課す税率をあげれば、タイミングを間違えば経済活動を萎縮してしまい、結局税収が落ちるリスクがあるし、何より国民に負担を求める政策は、国民に選ばれなければ当選できない政治家にとってはやりづらいわね。
どっちも難しそう、、、
こんな苦しい台所事情の中で、政府としてはまず、借金の返済を除いた支出と収入ベースでの財政黒字を目指している、と言うわけよ。
でも、なんでこんな状況で、日本政府は財政赤字を続けていられるんでしょうか。
企業なら、赤字を続けていれば倒産を防ぐためにリストラなどでコストを削りますし、家計も赤字が続けば節約をして出費を抑えますよね。でも、政府は、先ほど見た通りの事情で、伸びない支出の中で、むしろ支出をどんどん増やしているじゃないですか。これっておかしいですよ。
今日もいい質問がきたわね。
これは、政府の信用力がとても高い(と思われている)ので、借金ができているからよ。政府は、赤字で足りないお金を主に銀行など金融機関から借金をしてまかなっているわ。日本政府は、企業でいえばトヨタやソニーのようなピッカピカの会社や、個人なら一等地の不動産等優良資産を抱える富裕層のようなもので、いくらでも借金ができる状態ということよ。
ある意味うらやましい、、、でも、いつまでそんな状況が続くんでしょう。
いい質問を重ねてきたわね。
これは誰にもわからないの。その道のプロの学者や、金融の専門家でも結論はでていないわ。
えええ、、、どうしてですか。
要は日本政府の信用力次第、ってことなんだけど、その信用力が一体いつ崩れるか誰にも読めないからよ。
わかるようなわからないような、、、詳しく教えてください!
もちろんよ。そもそも、日本政府の借金のお金の出し手は日本銀行(47%)、生損保(21%)、銀行(14%)、海外7%よ。
日本銀行って、ようするに政府サイドの組織ですよね。なんか変なかんじ。たこが自分の足を食べてるみたい。
その違和感は正しいわ。
日本銀行の保有比率は群を抜いているけど、これは安倍政権によるアベノミクスの元、異次元の金融緩和を行い、日本銀行が金融機関から国債を購入し、経済に出回るお金の量を増やそうとしたためよ。
間接的に日本銀行が日本政府にお金を融通したとも言えるわね。
ということは、自分の足を食べたたこの体重はトータルで変わらないってことですか。
するどいわね!見方によれば、日本銀行と政府の勘定を合わせて考えれば(統合政府と呼ぶ)、国としては借金はチャラともいえるわ。
ただ、日本銀行は直接政府から国債を買い取ることは法律で禁止されているし、保有している国債は全て金融機関から2次取得したいわば中古品よ。
つまり、一旦金融機関が国債を保有することが前提となっているから、そのためには、先ほど見た通り日本政府の信用力が高いことが重要といえるわね。
日本銀行以外の人たちはどうですか。
日本銀行以外の国債保有者については、海外が一部いるけど、国内金融機関が中心ね。
彼らは、主に個人から集めた預金や保険金を、企業や政府含めた様々な人たちに対して分散して投融資を行うことで儲けてるけど、日本国政府に対する債権は、倒産のリスクがある企業や組織と比べて優良・安全資産(としてみなされている)なのよ。
だから、彼らのリスク管理上、一定程度保有するインセンティブが常にあるわけ。
そうか、見方を変えれば日本で一番安全な融資先なわけですね。でも、金利ってめちゃくちゃ低いじゃないですか。
いいところを突くわね。銀行について言えば、良い投融資先が限られている(総じて企業は業績も良くお金に困っていない)中で、日本の個人の資産運用は銀行預金が中心だから、銀行からすれば預金が余ってしまっている状況よ。
余った預金は日本銀行に預けることになっているけど、この際マイナス金利が付与されるから、利息をもらうどころか支払わなければならなくなるのよ。
結果として、日本銀行にお金を支払うくらいなら、ということで、日本政府に対してお金を出すわけ。
要は、集めすぎた預金の安全な投資先として日本政府を選んでいるのよ。
確かに、お金を取られるくらいなら、金利がほとんどなくても日本政府に預けた方がいいですね。
こうした理由から、国内銀行勢は日本国政府の信用力が高い限り、お金を出し続けるとみられるわ。
逆に言うと、日本が借金を継続できなくなる状態とは、国としての信用力がない、と見切られるタイミングということね。
なるほど、日本がいつまで借金できるかというのは、信用力が見切られるタイミング次第というところまでわかりました。
じゃあ、このタイミングはいつなんでしょう。
そうね。日本政府の借金は、ほぼ円貨だから、いざとなれば円を大量に発行すれば借金を返せるから、そんなタイミングはない、という見方もあるわ。
借金のことは一旦置いておいて、むしろ日本政府はしっかりと経済を上昇軌道に乗せるよう、財政支出を積極的に行うべき、とする主張もあるのよ。
ただ、この場合、円に対する信頼が失墜し、円は大幅下落、物価は大幅高になり国民生活は大混乱になるリスクを指摘する声もあるわ。
それは困ります、、、他にはどうでしょう。
もはや日本政府の借金をどうこうすることは不可能で、日本政府の信用力を見切られるタイミングは必ず来るから、それに備えるべき、とする議論もあるわね。
要するに、日本の膨らんだ借金をどうすればいいか、という問題に対して、納得できる答えは誰も提示できていない、と言うことですか、、、じゃあどうすれば、、、
ただ、重要なポイントは、仮に日本政府が財政再建を放棄する姿勢を見せれば、日本政府に対する信用力は一気に失われる可能性があることよ。
だから、健全化に向けた姿勢は政府は堅持をせざるを得ないわけで、財政健全化に向けた数値目標を掲げているのよ。
そもそも、こうなってしまう前に、過去どうにかできなかったのか、という疑問が湧いてきますね。
そうね。大きな論点としては、①適切なタイミングで経済活動に課す税率の引き上げ、②社会保障費の思い切った抑制、が考えられるわ。
①については、経済活動に与える負の影響が懸念されるほか、特定の経済活動の税率を引き上げると、国として経済に対して過度に介入することになる(し、利害関係者の調整が困難になる)点が問題視されているわ。
そこで、経済主体に対して中立的と考えられる消費税が引き上げの対象となり、過去引き上げられてきた経緯があるのよ。
なるほど、消費税ってそういう意味があったんですね。
だけど、経済活動に対する課税はタイミングを間違えると負の影響が大きく出てしまうわ。というのも、経済活動の6割程度は個人消費が占めるわけだけど、その個人消費にダイレクトを下押しちゃうから。
今はもう10%ですけど、過去引き上げたときはどうだったんですか。
やっぱり、過去も実施後に経済は大きく落ち込んだわね。バブル崩壊後の銀行危機の最中の1997年、大規模金融緩和による消費回復の腰折れになった2014年、米中対立で景気低迷した中の2019年、いずれも景気を下押ししたと言えるわね。
政府とか官庁には超優秀な人たちが集まっていると思いますけど、そうした人たちをもってしても、経済活動の先行きを正確に把握することは難しいんですね、、、
将来を予測するなんてことができるなら、経済政策は全部当たりまくって、今頃日本は世界一の経済大国よ。
確かにそうですね。②社会保障費の削減はどうだったんでしょう。
そうね。そもそも日本は国民皆保険制度っていうものがあって、日本人であれば公的医療保険に加入し、だれでも全国どこの医療機関でも医療サービスを受けることができるわ。世界で見ても、とても手厚い制度とも言えるけど、社会保障費はその代償とも言えるわね。
平均寿命や病気毎の死亡率で見ても他国と比べて高い健康水準を確保できているし、せっかく獲得した、この恩恵に真正面から切り込む政権は過去いなかったのよ。
確かにハードルはめちゃめちゃ高いですね、、、自分が受ける医療の質を下げることを納得してまで、増税に賛成するって、相当のMですね。
確かに。ハッチみたいな人くらいかもね。
えええ
日本の財政の論点を色々教えて頂きましたが、結局、岸田政権が今の達成できなそうな財政健全化の目標を維持する理由ってなんなんでしょう。
まず、そもそも財政赤字を続ける目標は政権担当者として評価されないのは当然よね。特に、秋に控える参議院選前に、政権の能力を疑問視されるような目標を正直にたてることはありえないわ。
収入を増やすか支出を減らすか選ばなければいけないけど、さっき言ったように、日本の借金がどこまで可能か、専門家の中でも明確な答えがない中で、歳出を削減する道筋は描きづらいわ。
確かに、腹落ち感がある意見ってないですよね、、、
だから、岸田政権として、収入を調整し、その中でも税率と異なり調整が容易な経済成長率を前提条件として調整し、実現可能性が難しい水準に置かざるを得なかった、というところね。
それに、実現可能は難しいという点を除けば、経済成長率を高めるという目標は前向きなものだし、批判されるものではないかもしれないわ。
でも、政権担当者として実現が難しい目標をそのまま掲げるのは、、、
その通りよ。経済成長率を高める施策として、新しい資本主義構想や、デジタル庁の旗振りによる日本社会のデジタルトランスフォーメーション、脱炭素に向けた新たな産業形成などの成長戦略を描いてるけど、具体的な道筋は明確ではないわ。
やはり実現可能が難しい目標を掲げたからには、そのための道筋を丁寧に説明してほしいところね。
じゃあ、政府の目標は別として、現実論として、政府の信用力を維持するためにも、財政再建のために必要なこととは何でしょうか。
効果が大きいものとして、適切なタイミングの税率の引上げと、社会保障費の抑制が挙げられるわ。
前者についてはタイミングを見抜くことは難しいし、社会保障費の抑制とセットで、計画的に進めるしかないんじゃないかな。
でも、社会保障費の抑制も税率の引上げも、国民はもちろん有権者の票を気にする政治家みんなが嫌がるテーマですよね。
そうね。仮にある政権がこのような計画を立てても、支持率が下がるとか、支持率低下を懸念する与党議員による首相下ろしの動きが出て、政権が交代するリスクは十分にあるわ。こうなると、せっかくの計画も継続的に実現できないわね。
う~ん。やるべきことではあるけど、短期的に具体的な問題が顕在化しないから、みんなのお尻に火がつかないんですよね。こういう問題は、どう取り組めばいいんだろう。
そうね。難しい問題だけど、例えば与党だけではなく、野党も含めて超党派で財政再建に向けた計画を取り決めるのも一手じゃないかしら。
そうして、景気の変動や政権与党がどこかに関わらず、着実に実行する体制を整えるべきね。ただ、そうした政治家の取り組みを支援する有権者の意識も醸成する必要があるわ。
なるほど。確かに理想的ですが、過去にそんなことができた事例はあるんですか。
あるわよ。過去を振り返れば、自民党と民主党などが超党派で合意したこと(2012年に超党派で合意し、2015年までに消費税を10%に増税実施計画の法案を可決)があるわ。
この内容自体の是非については議論はあるけど(上述の通り良くないタイミングで増税して景気を腰折れさせた)、仕組みとしては参考にできるんじゃないかしら。
なんか希望が見えてきました!そうした取り組みを支援していきたいですね。