【青森八戸・岩手北部】南部せんべい

ご当地おやつ
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【特徴】

・青森県八戸・岩手県北部など旧南部藩の地域で親しまれている、郷愁を感じるシンプルなおせんべいです。
・せんべいといえばお米が原材料ですが、南部せんべいは小麦粉、とくに南部地域で生産される南部小麦粉を使用しています。
・小麦粉を塩と水で練った生地を、丸い鉄製の鋳型で、固く焼き上げたもので、軽い食感と優しい味わいのおせんべいです。
・鋳型には、「菊水と三階松」と呼ばれる刻印があり、南部せんべいの表面には独特の模様が浮かんでいます。

・特徴として、せんべいの縁に「みみ」と呼ばれる薄い部分があり、ボリボリとした独特の食感を生んでいます(かなり固いです)。鋳型からはみ出たみみは切り落とされますが、このみみだけを集めた「せんべいのみみ」もまた地元で人気のある商品です。

・南部せんべいは現地の家庭で欠かせないおやつとして愛されていますが、パンのようにトースターで焼いてバターやジャムを塗って朝食代わりにする家庭もあるようです。
・バリエーションは豊富で、具材なしの白せんべいに、ごま、くるみ、落花生、いかなどの具材を加えたものがあります。

・食べ方もバリエーション豊富で、赤飯をはさんだ「こびりっこ」、小麦粉を更に小麦粉をまぶして揚げる「せんべいの天ぷら」、ピザの具材を乗せた「せんべいピザ」などがあります。
・特に有名なレシピは、B1グランプリでも優勝した八戸せんべい汁です。醤油ベースのお肉や根菜などを入れた汁物に南部せんべいを煮込んだものです。せんべいの食感はパリパリからもちもちに変化し、食べ応えバッチリです。

【ヒストリー】

・東北地方の太平洋側北部に位置する八戸・岩手県北では、梅雨から夏にかけて、寒流である親潮の上を通過して北東から吹きつける冷たく湿った風「やませ」により、農作物の冷害・凶作に悩まされてきました。
・「やませ」は餓死風、凶作風と呼ばれるほど恐れられてきたようで、岩手県出身の詩人である宮沢賢治は、あの有名な「雨ニモマケズ」で”サムサノナツハオロオロアルキ”と、やませを受けた冷夏を表現しています。

・そこで、現地では冷害に強い小麦、蕎麦、あわやひえなど雑穀が生産されるようになり、雑穀を粉に挽いて食べる食文化が古くから発達してきました。
・南部せんべいの起源については幾つかの説がありますが、主なもの(昭和20年頃に八戸煎餅組合によって整理)は次の通り。
・南北朝時代の終わり頃、南朝の天皇(長慶天皇)が八戸地方を巡幸された際、日が暮れて夕食の用意もなくお困りになったとき、家臣の赤松氏が農家からそば粉とごまを調達し、自身の兜で焼き上げて、仕上げにごまをふりかけて天皇に献上した、というものです。
・なんで八戸を巡幸されたか、という点ですが、衰退著しい南朝の勢力を盛り返すため、各地に支援者を求めたようです。そのような中なので、携帯する食料も十分ではなかったのでしょう。
・長慶天皇はせんべいにすっかりハマり、せんべいの焼き型に南朝の忠臣である楠木氏の家紋「菊水」と赤松氏の家紋「三階松」の使用を許した、と言われています。(これが先ほどの「菊水と三階松」の刻印の由来になります。)
・いわゆる、通常の米を使ったせんべい自体は飛鳥時代に中国から日本に伝わったようですが、今のようにおやつとして親しまれるのは江戸時代以降ですので、当時は主食として作ったものと思われます。
・北朝優勢になる中で暮らし向きも決して良い状況ですので、南部せんべいの優しい味わいはお腹を満たすだけでなくお心をもまた癒したのかもしれません。
・そもそも、南部地域は豊富な砂鉄・木炭・砂粘土に恵まれた土地柄で、平安時代より地場産業として南部鉄器が生産されていましたので、南部せんべいを焼くための鉄器もまた盛んに作られるようになりました。

【岩手vs青森が南部せんべいを盛り上げる】

・南部せんべいは青森と岩手にまたがる旧南部藩の地域の郷土料理ですが、発祥は青森・八戸にも関わらず、一般に岩手県のイメージが強いです。

・要因として決定的なものは、岩手県の南部煎餅共同組合が「南部せんべい」を商標登録したことですが、実体としても、業界最大手の岩手県二戸市の小松製菓(巖手屋のブランドで有名、売上高約30億円)や、岩手県久慈市の宇部煎餅店(全自動の近代化された生産工場で大量生産、売上高約10億円)など、岩手県側に全国への供給力のある企業が多いことに起因しているようです。
・巖手屋は、高齢者中心で縮小が続く南部せんべい市場を受けて、新市場を開拓するべく、2009年に南部せんべいを砕いてチョコレートでコーティングした「チョコ南部」が大ヒット。宇部煎餅店は全自動機械を導入し、効率化された生産で製品価格を抑えることに成功しています。
・結果として、南部せんべいという商品カテゴリの中で、青森より岩手のほうがより認知が高いようです。
・一方で、八戸も反撃に出ており、2012年には全国のB級グルメの日本一を決める「B-1グランプリ」で南部せんべいを使った「八戸せんべい汁」がゴールドグランプリを獲得しています。

・市場深耕が難しい南部せんべいという一つの商品カテゴリではなく、チョコレートの南部せんべいや、B級グルメの南部せんべいといった、一定の市場規模が見込まれる新たなカテゴリへの展開は、いずれも妙手と言えます。
・南部せんべいのベースにある素朴さゆえに、適切なカテゴリを選ぶことができれば、新たな市場を開拓できる可能性は無限大といったところでしょうか。

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