【特徴】
・秋田の豪雪地帯である内陸南部地域に伝わる大根の漬物で、一般的なたくあん漬けとは異なりスモーク感のあふれる独特の風味と色合いを持っています。
・「がっこ」とは秋田の方言で漬物を指し、「いぶりがっこ」とはいぶした漬物の意味です。
・かめばかむほど口の中にスモーク感が広がり、いぶりがっこ単体でご飯のお友やお酒のおつまみなど十分戦力になります。が、クリームチーズを乗せて食べると最高にマッチします。いぶりがっこのスモーク感・しょっぱさとクリームチーズのまろやかさが口の中で溶け合います。
・生の大根をナラやサクラの薪で4~5日の昼夜燻煙乾燥して干しあげます。この工程により、大根は甘く香ばしい香りを身に纏います。その後は米糠、塩、ザラメで樽に漬け込み、2カ月以上発酵させます。低温でじっくり発酵させることで、酸味が少なく、まろやかでコクのある風味が生まれます。
・漬物ですので、野菜由来の植物性乳酸菌が豊富で消化促進・免疫力向上が期待できますし、大根や米糠由来のビタミン、ミネラルや食物繊維を摂取できるなど、味だけでなく栄養面でも期待できる逸材です。
【ヒストリー】
・秋田の内陸南部は山間地・豪雪地帯で降雪が早く、大根を戸外で干すことが難しいことから、囲炉裏の火と煙で干したことが始まりとされています。
・一方で、戦後、囲炉裏からストーブなどに暖をとる手段が変わるにつれ、家庭でいぶりがっこが作る習慣はなくなり、一時期は食べる人もいなくなったそうです。
・そこで、「いぶりがっこ」として商品化したのが、秋田・湯沢市で漬物屋を営んでいた「雄勝野きむらや」とされています(1964年より発売)。
・通常のたくあん漬けと差別化するため、燻製度合いをかなり高めたそうです。
・秋田県内の駅の売店にいぶりがっこを卸すと、当時集団就職で東京で働く人たちが帰省時に秋田土産として購入したようで、徐々に秋田を代表する郷土料理として浸透していったようです。
・ご当地グルメとしての人気度が高まる中で、秋田の内陸南部だけでなく全域で農家が農作業の合間に作る等供給者も増えていき、市場が拡大していきました。
・17業者により年間278万本程度生産(2017年度)されていますので、一本あたり700円程度としておよそ20億円程度の市場規模となっています。
【名店】
○雄勝野きむらや(いぶりがっこの元祖)
・秋田・湯沢市で1964年よりいぶりがっこを提供する老舗です。
・保存料や合成着色料を用いない無添加にこだわり、添加物も使用していませんので、いぶりがっこ本来の素朴な風味を楽しむことができます。また、商品ラインもいぶりがっこや漬物数種類に絞り込んでいます。
・まるごと大根一本がパッケージされていますので、薄切りはもちろん、サイコロ上に切ってマヨネーズやクリームチーズ、ポテトサラダと和えたりしてもいいですね。
・通販サイトで販売しているほか、秋田駅等主要交通拠点、全国展開・県内のスーパー・百貨店にも卸しているほか、東京だと交通会館の秋田のアンテナショップで購入できます。
○伊藤漬物本舗(いぶりがっこのトリックスター)
・秋田・湯沢市の1965年創業の老舗です。
・きむらやと同じく無添加のいぶりがっこにこだわった漬物屋さんですが、特徴はいぶりがっこを活用した加工食品を提供していること。
・いぶりがっこをポッキーのように細く長く乾燥した「いぶりガッキー」、いぶりがっこを刻んだタルタルソース「燻」 などを提供しています。
・Amazon等大手通販サイトで購入できるほか、秋田駅等主要交通拠点、全国展開・県内のスーパー・百貨店にも卸しています。
【いぶりがっこは誰のものか】
・「いぶりがっこ」の名称をめぐり、いぶりがっこ業者間で議論になっていました。
・当社が1983年に登録した商標(いぶりがっこ6文字を使った画像)をめぐり、「いぶりがっこ」の名称自体にも商標があると主張しています。
・一方、他のいぶりがっこ製造業者は「いぶりがっこ」は一般名詞で個別業者が商標を持っていると主張し議論はすれ違い。
・2014年、他の企業(奥州食品)がいぶりがっこを含む画像を商標登録しましたが、その際、雄勝野きむらやは異議を申し立てましたが、却下されています。
・その後、秋田いぶりがっこ協業組合が特許庁にいぶりがっこの名称使用をきむらやが独占しているのはおかしいとして訴え、結果、2016年の判定書で「いぶりがっこ」は一般に広く使用、理解されており、きむらやの商標には含まれないとしております。ここで「いぶりがっこ」の名称は一般名詞として認められたようです。
・結果、きむらや、奥州食品含む秋田県の漬物業者の協働により、「秋田県いぶりがっこ振興協議会」が設立され、2019年に地理的表示保護(GI)制度に「いぶりがっこ」が登録されています。これにて業界としていぶりがっこを盛り上げていく体制が整ったといえるでしょう。
※ご参考:GI制度は、いぶりがっこのようなご当地グルメについて、上記のような名称の争いを避け、安心して業界として盛り上げられるよう用意された商標制度です。同様の制度に地域団体商標制度もありますが、こちらは質の悪い類似品等が現れた際は、各地域団体が個別に訴訟を起こす必要があります。一方で、GI制度は、農産物・飲食料品に限定されているほか、所管の農水省が違反者を取り締まってくれるなど、より登録団体が有利な制度となっています。
・きむらやが先駆者となり、いぶりがっこの市場を開拓してきた功績はありますが、いぶりがっこ市場全体のパイを拡大する観点からは、他業者との競争が適度にあるほうが、市場のプレゼンスは高まると思います。
・むしろ、きむらやは、初代いぶりがっことして本物感を上手くプロモーションするとか、いぶりがっこを活用した新ブランドの商品を手がけるとか、現地でしか味わえないいぶりがっこを使用した飲食店の展開、などで、いぶりがっこ市場自体の拡大を目指すといった方策が適していると思います。
・その意味で、一連の流れとGI制度登録は、いぶりがっこ業界を盛り上げていくうえで必要不可欠なプロセスだったと思います。今後のいぶりがっこ市場の進化に期待したいです。